誤情報流入の宮城県知事選を授業で~地元紙、研究者、若者はどう見たか? 

 どのメディアが信頼できるのか分からない 

 宮城県知事の「悪行14選」。けばけばしいレイアウトの現職批判情報が、先月の知事選のさなかSNSに出回った。強引改革で宮城を売る~として、メガーソーラーや外国人労働者の受け入れの推進、宮城県を○○国のホームタウンに、選挙のために土葬撤回…。キー局の報道番組でも取り上げられた。半分以上はたぶん合っている~と匿名取材で語った発信者は都内の人だという。日本ファクトチェックセンターはやはりSNSで根拠不明、誤り、ミスリード含むと判定。誤情報、デマがウェブ上にあふれた同知事選で、たとえば移民受け入れと関連付けられた「土葬」をめぐるX投稿の4割以上が関東発だったという(河北新報の記事/知事は9月県議会で撤回)。 

 10月に東北文化学園大の2年生の授業(マスコミュニケーション論)で「SNSと選挙」を取り上げた。ちなみにこのSNS上の情報を見たことがあるかどうか、30余名の受講生に尋ねたところ、手は全く上がらなかった。聴いてみると、選挙に関心がないのではなく、どこのメディアが信頼できる情報を届けているのか分からない、という立ち位置だった。ある受講生は「気になった候補者がいたが、街頭の演説を聴いてみたら、大したことがなかった」と語った。 

 兵庫県知事選では「ニュースの空白」で混乱 

 「“拡散のトランペット”といいます」と、授業のゲストで友人の法政大教授・藤代裕之さん(メディア社会学)。フェイクニュースなど無視すれば消える情報を報道機関が興味本位で取り上げることで、知らなかった人たちにも拡散を助けてしまい、情報の生態系を汚染する現象という(2021年6月7日「調査情報デジタル」の記事参照。「分からない、という教室の受講生のみなさんが真っ当なんです」 

 1年前の兵庫県知事選では、『新聞やテレビが、選挙期間中に「政治的公平性」から沈黙し、その空白に「メディアが報じない真実」などと主張する立花(注・孝志氏/ N党党首)が入り込んだ』(25年4月6日の読売新聞オンライン)。藤代さんはYahoo!ニュースから同知事選の記事配信を調べ、「約7,500本の配信数に対し、選挙関連の記事は17日間で127本しかない」「注目される選挙にもかかわらず記事が非常に少なく、『ニュースの空白』が起きていた 」(調査情報デジタル2025年3月29日の記事参照参)と、ニュースメディアの不戦敗を指摘した。 

 「かほQチェック」で読者に事実を届けた河北 

 その混乱状況を見て宮城の河北新報は、参政党代表と現職知事との遺恨(水道民営化をめぐる参院選での論争)もあり、事前に争点を予測して選挙取材班と別に「かほQチェック」担当を置いた-と、もう一人のゲストの同紙デジタル担当、安倍樹さん(前担当役員・編集局長)は語った。「かほQチェック」はファクトチェックとは異なり、ネット上の関心の動向、現場の論戦を分析しつつ争点が何かを可視化し、「読者の関心、疑問に応え、判断してもらう形の取材記事、紙面と『河北オンライン』で提供しました」と安倍さん。 

 <*宮城県知事選挙で再び争点「水道みやぎ」導入の経緯って? *「なんで外資に任せるんですか!」参政・神谷代表が宮城の水道「民間化」を批判 主張の根拠は? *宮城県知事選挙に絡め「宮城県がメガソーラー大歓迎」は事実誤認 これまでの経緯と対策は? *宮城県知事選挙で誤情報がSNSで拡散中 法令違反に問われる可能性も *宮城県知事選挙で話題「土葬墓地」検討撤回の経緯って? 「デマ」あふれる宮城県知事選挙 冷静な投票行動を>。選挙中の「かほQチェック」(随時掲載)の一部だが、わかりやすく詳しく正確で、敗れた陣営から「河北のせい」との弁も報じられた。「オンラインの記事ビューアーが急増した訳ではないが、地元紙の役目を果たせたのでは」と安倍さん。 

地元は大事な政策論議、課題解決を考える機会を奪われ…

 筆者の進行で3人のトークの形で行われた授業はを、受講生はどう受け止めただろう。 出席カードにはこんな感想があふれた。「自分たちが声を上げても全然届いていない気がする。自分たちに都合のいいようなことをしている人たちはだめだと思う」、「(土葬の件は)実際は撤回されていたことを知り、私はネットニュースに踊らされていたんだと思った」、「嘘の情報でも真実と信じ込む人が拡散する。第二第三の人にさらに拡散されて、真実の情報に扱われてしまい、真実は失われてしまう」、「周りのSNSがこんなに虚偽に囲まれている状況は困る」、「SNSに引きずられすぎて争点がずれてしまったら、テレビの情報も信じられなくなる」、「ファクトチェッカーがネットの話題が真実かを確かめようとして、誤った情報をネットに広げてしまう」-。 そして「自分の考えと同じものだけでなく、別の意見や情報も見て考えるようにしたい」。 

 授業の最後に、藤代さんが受講生に「コミュニティーノート」を紹介した。X(エックス)の機能で<多くのユーザーが協力して、役に立つ背景情報をポストに追加し、他のユーザーへ十分な情報を提供する>。誤りやデマの疑いある発信情報に、誰でもチェックを入れられ、実際のXの投稿例で解説してくれた。感想には「コミュニティーノートを活用してみようと思った」、そして「公正なメディアから情報を集め、より良い投票をしていきたい」。ネット世代に見える20歳の若者たちがよほどクールで慎重な流儀を身に着けている。 

そして、この日の結論。SNS上場の空中戦に在京キー局のワイドショーなども加わる異常事態の選挙、結局は「若者をはじめ、地元の人々にとって身近で大事な政策を論議し、課題解決を考える機会が奪われてしまう」と安倍さん、藤代さん、筆者の苦い思い、憤りは同じだった。