【CafeVita82】 記事づくりへの産みの苦しみ、わかるわかる、わが事のように…
尚絅学院大がある名取市の被災地・閖上地区の津波体験者たちを取材し、自ら見つけた視点で次の3月11日に向けて記事を書こう、そして新たな「伝承者」になろう~。そんな実践講座『当事者とつながる学びとスキル』が、12月に入って執筆本番へのヤマ場に入った。
8人の受講生は、幼稚園年長の頃という東日本大震災の記憶を授業の原点に「自分も当事者の一人」として、閖上で12年前に起きたことを調べ、学内の支援活動の経験談を聴き、「取材するとは何か?」の意味と方法を学び、10月に現地を訪ねて被災者である住民の方々5人の当時と今をインタビューさせてもらった。
その後の授業で「閖上で何を聴いたか」を振り返り、現地で出会った町内会長の長沼俊幸さんを2度教室に招いて、「その後」の避難所、仮設住宅での生活、「現地再建」がなされた閖上への帰還と新たなまちづくりの模索を聴き、受講生たちの記事の構想に「円座」で感想と率直な助言、語り切れなかった伝言をもらった。
そんな道のりを経て、いよいよの記事づくりである。12回目(12月11日)は、前回の「タイトル案を絞り、見出しにしよう」から1歩進めて、「『閖上の物語』のコンテ(記事の構成案、あるいは設計図)を作る」。コンテは、見出し、リード文とともに、長い記事や連載の企画に不可欠。新聞記者歴40年の私自身、身に染みて知る作業だ。
未経験の彼らにもなじみ深いであろうアニメの事例を、まず見てもらった。故大友克洋さん(宮城県出身)の『AKIRA』や、『魔女の宅急便』などジブリ作品のネット上の絵コンテ。映画の長大なストーリーにも、原作者や脚本家の展開案がまずあり、ざっくりに見えながら、先々までのコマ割りにきめ細かな説明が振られ、完成形へワクワクするような創造力を刺激し、誘う。受講生たちも、うんうんと興味深そうだった。
彼らの記事づくりが拠って立つコンテの枠として考えてもらったのは、基本形の「起・承・転・結」。小学校の国語でも習う、この普遍の型には意味と合理性があり、ここでは簡潔に、「起」〈現場のリアル~どんな人、発見、問題に出合ったのか〉、「承」〈取材者の関心が深掘りする、伝えたい『核心』の詳報〉 、「転」〈そこに立ち至ったの問題の経緯と『なぜ?』、筆者の分析と考察〉、「結」〈そこから当事者はどうなってほしいのか、何を希望しているのか、筆者の『私』は読み手にどう考えてほしいかの提案とメッセージ)~と例示させてもらった。
「コンテは設計図。自分も記者時代、やりたい連載のコンテを作って上司に見せたし、後輩のコンテもたくさん見た。そこで筋が通って分かればパスだし、だめなら練り直し、ボツにもなった。それが魅力的か、成功するか、コンテを一目見ればわかる」
「コンテは羅針盤。それができれば、長い本だって書けるけど、いい加減だと、行きあたりばったりで漂流、座礁するよ。きみたちの卒論にも、将来の仕事で書くだろう企画書、提案書にも応用できる。とにかく『人にプレゼンし、伝え、わかってもらう』ための大事で便利なスキルになるから」
授業の後半は実践作業―。見出しを作ってテーマを絞るまで来たけれど、それを立体的な設計図にするのは、脳みそに大変な力仕事を強いる。それまでの取材の質量が問われるし、情報不足もいやというほど見えてくる。「できたら見せにきてね。迷ったら相談してね」と声を掛けたが、受講生たちは机とにらめっこで、うんうんとうなっている。手に取るように伝わった、これが「産みの苦しみ」。その姿は昔の自分…。
「わかるよ、ここが一番悩みどころで、時間が掛かるんだ、どんなプロだって。だから、いっぱい悩みなさい」と声を掛けたが、耳に届いたか…。その完成は、次週までの宿題となった。