寺島の詩、上田益さん曲の震災10年の合唱組曲『また逢える〜いのちの日々かさねて』の東京初演がありました。

東京に響いた被災地の歌 〜「レクイエム・プロジェクト」東京特別公演から   寺島英弥
 12月13日夕、東京の紀尾井ホールにて、作曲家・上田益さんが主宰する「レクイエム・プロジェクト」の東京特別公演が催されました。東日本大震災のから10年の時を重ねた、東北の被災地の人たちの声を編んだ私の詩に、上田さんが作曲した合唱組曲『また逢える いのちの日々かさねて』の東京初演がありました。
 『また逢える』は、私の郷里・相馬から三陸まで「あの頃」が失われた浜の町々の記憶の風景、 消え去った店の跡で形見のレコードを空に放り再起を誓ったジャズ喫茶主人の姿、 我が子を津波で喪くし死を思いながら「また逢える、だから生きろ」との言葉に出合った母親の心の軌跡、 子どもたちの帰還の日を夢見て除染され荒野になった畑を再び起こす農家の決意〜 を歌う四つの曲から成ります。
 2008年の神戸に始まり全国の被災地、戦災地のために「希望のレクイエム」を作る上田さんと共に、各地に広がり公演を重ねる合唱団のうち、地元東京のメンバーたちにプロの声楽家も加わり、この夕のステージに並びました。
 『また逢える』は今年9月11日に多賀城市文化センターで初演され、その後、広島市、そして東京が3カ所目でした。「東北の被災地のための歌が、東北の外でどう響くのだろう」。そんな私の思いを超えて、例えば4曲目、天明の飢饉で荒野になった村に留まり、復興の鍬を振るった先祖への約束を胸に、原発事故からの再生に懸ける歌など、とても力強い合唱がホールいっぱいに響きました。
 2曲目の「一枚の古いレコード」では上田さんの軽快なジャズロックのリズムをめりはりたっぷりに歌ってジャズ喫茶主人の面影を彷彿とさせ、この曲集のレクイエムといえる3曲目の「また逢える」では、「悲しみは愛」という想いに至る魂の旅路を連綿と歌い上げ…。
 客席に響いた東京合唱団の方々の「共感」は、地域を超えて、多賀城の初演にも駆けつけ、仙台の合唱団と声を合わせたメンバーたちが持ち帰った「種」の開花にも思えました。レクイエム・プロジェクトでは、神戸、広島、長崎、仙台、北いわて(久慈市、野田村)などで毎年のコンサートが開かれるたび、各地の仲間が他の地域の「レクイエム」の演奏に参加し、歌の交流を続けています。

 広島の上田由美子さん、福島の和合亮一さん、岩手の宇部京子さん…。土地土地の詩人が掘り起こした地元の「声」を上田さんの音楽で共有し発信し、そこに込められた歴史と人の心を各地にまた伝承し、そうやって全国の人と地域をつないできました。東京にも、あの大空襲や関東大震災の記憶があります。そして、どこかに新しい被災地が生まれれば、きっとそこにも、慰めと希望の歌を届けに。
 この、終わりなく当事者たちの「声」を伝え響かせる運動は、私もその一人として活動する「ローカルジャーナリズムと等しき営み」と、この夕べのステージの幕間に、上田さんと私が行った対談で思いが一致しました。
 レクイエム・プロジェクトは2022年も、1月23日の神戸(栄光教会)演奏会で新たな幕を開けるそうです。
東京特別公演のライブ配信動画はこちらを!https://www.youtube.com/watch?v=PV_F-o8KMUc