【CafeVita80】尚絅学院大の授業で、新聞社の元相棒、門田勲写真部長がゲストに。「人に伝える写真」を受講生に伝授! 

【CafeVita80】誰に向けて書くか、新聞カメラマンに聞こう!
〈元相棒にゲストになってもらう〉
 尚絅学院大健康栄養学類の学生さん70人余が受講生の「基盤演習」。新聞の読み方の授業から始まり、文章の書き方、それを進化させて今期は「私だけのニュースを書こう! ローカルジャーナリスト教室」 と、目標だけは大きく銘打たせてもらった。
 その6回目は「伝えるのは文章だけじゃない~新聞カメラマンが教える『「人に伝わる写真』」。河北新報の写真部長、門田勲さんがゲストだった。
 門田さん~モンちゃん~は、私が古巣の記者時代、東北を一緒に歩き回り、ネパールでしんどい山旅もした元相棒だ。授業のテーマは「写真も記事と同じ、人に伝えるニュースになる」。
 これまで日記や感想文、SNSや小論文など自分向け、仲間向け、先生向けの文章は書いても、「人に伝える」文章には発想というか方向の転換が必要だ。
 前回の授業で、昔のオフコース、小田和正さんの歌の詞を聴いてもらい、伝える相手の「人称」の違いを感じてもらったのも、一つの方法だ。
 写真にも、自分の思い出や記録のため、仲間内のシェアのための「スナップ写真」、ちょっとあらたまった記念写真はあっても、不特定の「誰か」に向けて何かのメッセージを伝える写真を、日常で撮る機会は少ない。それは文章の場合と同じだろう。
 文章を書くことに苦手意識がある人でも、写真なら手軽にトライできる。そのきっかけを、元相棒に伝えてもらえたらと思った。
〈ストーリーを込め、読んでもらう写真〉
 まず壇上のインタビューで、プロを志したきっかけ、新人のころの教育と修行、独り立ちへの道のり~すなわち「人に伝える」という発想の転換をどうやって成し遂げたか~。その上で、門田さんがこれまでに撮った作品をスクリーンに映して、受講生に観てもらった。キーワードは「一枚の写真に、ストーリーを込め、読んでもらう」だった。
 写真の多くは、東日本大震災の取材現場で出会った人々。最初の写真は、木彫りの仏さんを抱く若いお母さん。その仏の腕に小さな赤子がいた。優しいまなざしで見つめる母親は、津波でわが子を亡くした人だった。沈痛な表情の女性たちが集う場の背景が、ひときわ母親の慈愛とも呼べる表情を浮き上がらせた。木彫りの仏と相似形が浮かんだ一瞬を、写真記者は永遠のものにしたのだった。
 続く写真の数々は、その出会いから取材の縁を重ねて、その若い母親と夫、小さな二人の子どもが生まれた家族のその後を撮り続けた。そして震災10年の3月11日の朝刊1面、末面にまたがった写真は、悲しい記憶の場所である海で遊ぶきょうだい、それを見守る両親の姿だった。一人の写真記者が、人生で最も厳しい現場で出会った家族と同じ歳月を生き、悲しみの底から「未来」に向かおうとする歩みを共にした。それゆえに撮ることができた写真だった。
〈スマホ写真にたくさんの気づき〉
 授業の後半は、受講生たちに教室の外へ出てもらい、門田さんのお話を実践する「タイトルの付く写真」をスマホで撮ってもらった。空っぽになった教室に15分の後、戻ってきた若者たちの間を門田さんに巡ってもらい、スマホで撮ってきた課題作品にできる限りの講評をしてもらった。受講生たちもわくわくと楽しそうだった。
 「ふだん通う構内の道だが、この授業がなければ気づけなかったものを撮れた」「写真を撮ってみて、自分が撮りたいと思う気持ちや撮る目的が必要であると分かった」「写真の対象をさまざまに視点を変えて撮ってみた。友達の後ろ姿を撮りました」「写真にはたくさんの思いが込められていることを知った。少しずつ伝える写真を撮っていきたい」「ストーリーを読み取ってもらう写真を撮るには、相手をリスペクトすることが大切と学んだ」「低い視点で被写体の足元を撮りました。先生の講評から改善点が見えた」「写真を撮るために歩き回った中で、初めて見つけるものが多いことに気づいた」「見慣れた風景も時間の流れとともに背景の色が変わっていく。それを伝えられたらと思った」―――。
 感想カードに書かれた受講生たちの気づきのほんの一端だ。ひらめいたアイデアからの授業だったが、写真にこもる元相棒の「人間力」が若者たちを魅了したようだ。そのたくさんの気づきを、次回は文章に戻って生かしてもらおう。