【つらかったら声を上げ、ぐちを言い、助けを求めて、生きて、絶対に死んじゃだめ。幸せになれるよ】
「悪い人はたくさんいるけれど、良い人たちもいるよ。そんな出会いが必ずある。つらかったら、つらいと声をあげて、愚痴を言って、助けを求めなさい。生きて、生きて、何があっても生きて」
「バイトでもいい、どんな仕事をしてもいい、一生懸命に生きてれば、必ずよいことがある。きっと幸せになれる。いじめられても、幸せになって、見返してやるんだよ。絶対に死んじゃだめ」
警察官だった長男を自死で亡くした田中幸子さんは、東北文化学園大の教室で五十余人の2年生たちに語った。筆者の「マスコミュニケーション論」の授業のゲストに招いて3年目。全国で初めて自死遺族が集う「藍の会」を仙台で結成して19年になる。「兄ちゃんの死が悲しくて、俺は一生、幸せにならない。そう言ってた次男も、42歳になって結婚したよ」
「自殺」という言葉にこもった偏見や差別から、地域で孤立していた母親ら遺族たちは連帯し、、全国自死遺族連絡会を設立し、相互支援の輪を広げ、国に自死対策の法律制定を求めた。たった一人の当事者が挙げた声が、閉塞した状況に風穴を開け、社会に新たなマスコミュニケーションを生んだ。今、相次ぐ学校のいじめ自死事件の調査委員会でも当事者の側に立つ、田中さんの言葉が教室にも。感想カードに若者たちの思いがあふれた…。
「就活でどうしたらいいか息詰まっていた。がんばって、辛くても誰かに弱音をはいて、楽しく生きたい」 「いじめの事実を認めず、謝罪もしない学校や大人たちがいる事実に驚いた」 「当事者の声が社会を変えることを知った」 「良くしてくれた親戚を自死で亡くし、今日、心にくるものがあった」 「私もいじめを経験した」 「必ず幸せがくるという言葉を信じて生きたい」 「なぜ人を死まで追い込む人間がいる?」 「相談することは大事だ、居場所は必ずある」 「亡くなった方々の心をしっかり受け止めて前に進みたい」