私的「ローカルジャーナリスト論」、龍谷大学の授業(7/19)の受講生あてにしたためました。お読みいただけたら…。
7月19日、龍谷大学の松浦さと子先生のご依頼で、「現代社会とメディア」の授業でOnlineの講師をさせてもらった。テーマは「終わらぬ大震災・原発事故 地域から伝え続ける意味とは?」。地方紙の新聞記者が、なぜローカルジャーナリストになったのか、震災から現在への取材史をベースにお伝えした。
80名の受講生のうち3名しか質疑を受けられず、最後に出題した『私がローカルジャーナリストになったら、何を取材するか?』という課題のコメントに、返信の形でメッセージを書かせてもらった。私的ローカルジャーナリスト論になった文章を、記録しておきたい。若い仲間を広げる種まきも、ローカルジャーナリスト元祖の田中輝美さん(元山陰中央新報記者、島根県立大准教授)への約束だから。=以下に本文、長文です…=
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龍谷大学「現代社会とメディア」7月19日講義の受講生・課題コメントへの返信 /ローカルジャーナリスト 寺島英弥
受講生の皆さま、「終わらぬ大震災・原発事故 地域から伝え続ける意味とは?」の授業をお聴きくださり、ありがとうございます。最後に出題させていただいた「私がローカルジャーナリストになったら、何を取材したい?」へのご回答、松浦先生よりお送りいただきました。80名もの方が「わが事」として受け止めてくださり、感謝です。「『伝えたいと思う人や出来事、そして動機』と出合うことで、誰もが、それぞれの場所でローカルジャーナリストになれる」と申し上げましたが、いただいた回答はそれぞれに違って多様で、多くの可能性を見出せた思いがしました。私なりの感想をお返しさせてもらいます。
「取材したいこと」をテーマ分けをさせてもらうと、「地元・地域」が一番(37名の方)でした。私の問いかけに、思い浮かべたのが古里の、愛着ゆえに心に懸かっている問題、課題なのでしょう。地元につながっている「震災・災害」(18名)、「社会・環境問題」(7名)、それを担える「ローカルジャーナリストへの関心」(18名)でした。
〇皆さんの回答がニュースの宝庫
授業で触れましたように、私も12年前の記者時代、心を曇らせていたのは郷里の福島で起きた原発事故と古里の行く末、さまざまに避難を強いられた「同胞」の安否でした。
それまで、一日も早く古里を出たくて東京の大学に行き、遠くにありて思うもの…でしたが、生まれて初めて「同胞」の言葉をかみしめ、自分という人間の根幹にある古里を自覚しました。いまだ復興ならず、原発汚染水の処理水の放出開始をはじめ新たな問題が次々とのしかかってきます。ただ時間や国のお金は問題を解決しない。何かをしたい!と思い立つ私たちにできるのは、「今から現地へ行って、当事者の話を聴こう!」です。
自分たちの古里をどうしたいか、そこでどう生きてゆきたいか、どんな未来にしたいか、そのためにどんな解決を望むか―への当事者たちの声を聴き、発信の手助けをし、遠くの他者たちにも伝え、共有してもらい、人と人をつないで解決の方法を共に考えてもらう、理解から一歩進めて応援・支援につなげる―。それが、大メディアにありがちな一度きりの「衝撃のニュース」でない、ローカルジャーナリストの在り方だと思います。そしてローカルは直に「全国、世界」につながっています。
皆さんの考えたテーマはどれも、ニュースの宝庫です。ランダムに紹介してみましょう。
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・「地元民が慣れ親しんだ食堂が災害によって閉店していることなど、メディアでは伝えきれていないようなローカルな情報を伝えていくことで、若者たちをまた地元に戻りたいと思わせるのではないか」
・「地元の神戸住吉にある六甲アイランドの活性化を支援したい。バブル期に神戸の海上文化都市として誕生したのですが、もう一つの海上文化都市であるポートアイランドに比べて過疎化が進んでおり、「神戸ファッションプラザ」は映画館の閉店、建物の10階あるうちの3階以上が閉鎖中と、とても深刻な状況下にある」
・「地元の岐阜県岐阜市にある「論田川」について伝えたい。論田川は主に住宅街に面しており、大小さまざまなゴミの投棄で濁っている。私が小さいころはまだ入って魚を取ることができる水質だったが、今ではそんな子どもはまったくいない。子どもが遊べる川に戻すためゴミ投棄を止める必要がある、ということを訴えたい 」
・「京都の人間として継承問題を取り上げたい。今後の日本の為に伝統工芸品は必要不可欠でありながら、経済的な問題や人材などの問題で悩まされている。西陣織で有名な西陣で育った者として問題を伝えたい 」
・「私の母は田舎の過疎地域出身で全校生徒15人ほどの学校に通っていたこともあり、廃校になることによる問題に興味を持ちました。廃校により過疎が加速することや、通学が大変になることなど現状を伝えたい」
・「三輪そうめんの人手不足を広めたい。私は奈良県桜井市出身で地元にゆかりがあり、友達の家族が三輪そうめんを製造していて話を聞くと、製造も販売も広報も人数が少なく、これはどこも陥っている状況だと聞く」
・「父の故郷である三重県の紀宝町について、南海トラフ巨大地震の津波対策について伝えたい。最短6分後に大津波が襲うと予想され、高齢者が多い地域でありながら、高台が少ないことや避難場所までの距離があることに危機感を抱く。既にある避難計画で生き残ることが出来るのか、今一度わが事として考える必要がある」
・「私は岡山県出身で、高校時代、豪雨の被災地である真備町にボランティアに行った。そこで、報道されている情報はごく一部であることに気づかされた。私がもしローカールジャーナリストになったら被災地の状況だけでなく、被災者が実際に求めていることを伝えることでボランティアを促すような情報や記事を発信したい 」
・「私は熊本県出身で中学生の時に熊本地震を経験した。したがって、私がローカルジャーナリストになったら、その経験から地震に備えて何をすべきか、地震に遭ったらどんな行動を取るべきかを伝えたい。実際に地震を経験したからこそ言えることや、反省もある。それを自らの口で伝え、多くの人に知ってもらいたい」
・「ヤングケアラーの実態を伝えたい。ケアラーの友人は、普段から負担が多いことで肉体的だけでなく精神的な疲労が見られた。体系的な行政サポートは未だになく、中学までの義務教育すら時間が割けず、権利を侵害されているため深刻だと。まずはヤングケアラーの存在の正確な認識をSNSで等で広め是正したい」
・「大きな報道局が伝えないようなことや焦点が当てられないようなことについて伝えていきたい。また、地元で起こっている問題で、全然知られていない部分について全国の人に知ってもらうべきことを積極的に取り 上げることで、問題に苦しんでいる人、悩んでいる人を手助けしたい」
・「一部地域しか報道しないメディアが報道しない地域の取材などをしていきたいです。報道されない地域に救助が来ないなどという実態があるのが正直許せません。そのような酷い扱いを受けて困っている人たちがいるのを多くの人に知ってもらい助けられるような記者になりたい」
・「私は明るいニュースを届けたいです。最近のニュースは芸能人の訃報や殺人事件、不景気など暗いニュースが多く、気持ちも暗くなってしまいがちですが、ある情報番組の動物紹介のコーナーを見て癒されました。動物に限らず地域であった面白いこと、幸せなことを報じ、少しでも世の中が明るくなればいいなと思いました」
・「地域の方々と一緒に、起こっている問題や課題に取り組みながらあまり知られていない地域の情報を少しでも多く伝える。そのためには何が必要か、何をするべきかなども、地域の方だけでなく、情報発信の知識をより詳しく持っている学生などに協力してもらいながら、魅力発信や問題解決をしていきたい 」
・「ローカルジャーナリストになったら、真実を世の中に伝えたいと思った。人は忘れてしまう生き物。しかし、過去に起きてしまった不幸をもう二度と起こさないために、現地に訪れ、新聞じゃ書ききれない何かを実際に体験し、世の中に伝え、同じ国にいてまだまだ困っている人達を助けられる存在になりたいと思う」
〇気づき、発見、出会い~その瞬間こそ大事に
皆さんがお書きになった回答は、どれもが「オンリーワン」のニュース。ぜひ私が読みたいです。ローカルジャーナリストには誰でもなれます。最も大事なのは「この感動をどうしても伝えたかった」「あんな人がいることを、誰も知らないなんて」「その場所で見たことが、心に引っ掛かる」「誰も何も言わないけれど、こうしたらいいじゃないか」「誰も関心がないなんて。私が行って話を聴いてみよう」「そのことを伝えたら、この街のみんな、喜ぶんじゃないか」「私だけが出合ったこと、いま誰かに伝えなければ永遠に消えて、なかったことになる。それでいいのか」という瞬間。
そんな、誰も気づかぬ自分だけの発見や、出会って知って心揺さぶられたこと(人)、出くわして「おかしいぞ大変だぞ」と感じたこと、自分が伝えることで誰かを手助けできると思ったことーなど、日常の出会い、気づきです。私は東日本大震災の被災地取材で、例示したような「今、この被災者が語ってくれた言葉を記録しなければ、永遠になかったことになる」という感情~現場に立ち会った者だけの危機感、恐怖感~を何度も味わい、それが現在も取材を続ける使命感に変わりました。(その結果の著書などを授業のレジュメにも載せましたが、あらためて一人のローカルジャーナリストの事例として直近の取材記事をご覧いただけましたら。 https://tohoku360.com/?s=寺島英弥)
夏休みで帰省された折、新しい目線でご自分の地元、古里を見つめ直してみてください。そして古里から戻った時の新たな目線で大学のある京都の街も。きっと発見があると思います。また、ご回答に書いてくださった「ローカルジャーナリストになったら」書きたい種、大事に温めてください。
「今でしょ!」という瞬間を忘れずに。それがあなたを日本中で、世界中で「オンリーワン」のニュース発信者にします。/発見や気づきや体験をできるだけ詳しくメモにし、その場所を見に行き、勇気を出して人の話を聴きにゆき、スマホで写真を撮り、書いてみる/といったアクションが続きますが、それら続きの学びは、松浦先生や私に相談メールを出せば、きっと手助けいたしますよ。