敗者の歴史への深い愛と探求―平山優さんの『武田氏滅亡』を読んでます。

 『武田氏滅亡』という本(角川選書)を読み始めた。750㌻もあり手に重たいが、読んで飽きること疲れることがない。
 「信虎」という映画~信玄の死から滅亡への武田家の日々を、信玄に追放された父の目から俯瞰した~を観て、もっと知りたくなり見つけた本。著者は歴史学者の平山優さん。
 一本一本の文章が簡潔、伝える内容が明晰で、現時点でわかること、わからいないこと、自身が研究し解明したこと、後発研究に待つこと、先輩研究者でも間違っていること―をはっきりと切り分けて、その先へと導いてくれる。
 どんな読み手にも一度で分かること~いつの時代も新聞記者の目標だが、そんな修業中の人にも手本となる文章だと思う。
 (話題の書という『謙信越山』という別の戦国史研究者の本も買ってみたが、分かりづらく読みにくく、途中でやめた)
 平山さんはNHK「英雄たちの選択」の常連で筆者も知っていた(語り口もいい)。「真田丸」や「どうする家康」の歴史考証も務める。東京生まれ、立教ご出身で、武田氏ゆかりの山梨に移り、同県の歴史研究職を歴任し県立高校教諭を経て、昨日観た「英雄たちの選択」では肩書が大学特任教授。著書も武田氏関係のタイトルが並ぶ。
 未知のドラマが眼前に展開してゆくような読み応え。分析や推理は鋭く、だが冷たさはなく、そうせざるを得なかった人の感情や関係の機微への感性、そうならざるを得なかった時の流れと事態の変化への深い読み、こんなにがんばっていた、こうあればよかったのに…との共感や哀惜もあり。敗者の歴史への深い愛ある探求者。もっともっと読みたくなった。